そらんじ徒然草

尹大納言光忠入道追儺の上卿を勤められけるに

一言でいうと
儀式の実務は、身分の高い人より、現場を知り尽くした者に教わるのがよい。
原文
尹大納言光忠入道いんのだいなごんみつただにふだう、追儺ついなの上卿しやうけいを勤められけるに、
洞院右大臣殿とうゐんのうだいじんどのに次第を申し請うけられければ、
「又五郎男またごらうをのこを師とするより外の才覚候さうらはじ」とぞのたまひける。
かの又五郎は、老いたる衛士ゑじの、
よく公事くじになれたる者にてぞありける。
近衛殿このゑどの、着陣ちやくぢんし給たまひける時、軾ひざつきを忘れて、
外記げきを召されければ、火焚きて候さうらひけるが、
「まづ、軾ひざつきを召さるべくや候さうらふらん」と忍びやかにつぶやきける。
いとをかしかりけり。
現代語訳
尹大納言光忠入道が、追儺(大みそかに鬼を払う儀式)の上卿(責任者)を務められた時、洞院右大臣殿に式の手順をお尋ね申し上げなさった。すると右大臣殿は、「又五郎という男を師匠にするほか、よい考えはありますまい」とおっしゃった。その又五郎は年老いた衛士で、朝廷の儀式や実務にたいへん慣れた者だった。近衛殿が着陣(役人の座に着くこと)なさった時、軾(ひざをつく敷物)を忘れて外記をお呼びになったところ、火を焚いてお控えしていた又五郎が、「まず、軾をお求めになるべきでございましょうか」と小声でつぶやいた。実に面白いことであった。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)
出典と照合について