北の屋かげに消え残りたる雪のいたう凍りたるに
一言でいうと
凍る雪と有明の月の下、人けのない御堂で語り合う男女の姿は、尽きぬ物語を思わせる。
原文
北の屋かげに消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、
さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、
有明の月さやかなれども、くまなくはあらぬに、
人離れなる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、
女と長押に尻かけて、
物語するさまこそ、何事にかあらん、尽きすまじけれ。
かぶし・形など、いとよしと見えて、えもいはぬ匂ひの、
さと香りたるこそをかしけれ。
けはひなど、はつれはつれ聞こえたるもゆかし。
現代語訳
北側の建物の陰に消え残った雪がひどく凍り、近くに寄せた牛車の轅にも霜がきらきらと光っている。有明の月は澄んでいるが、あたり一面を照らすほどではない。そんな中、人けのない御堂の廊下で、並の身分ではないと見える男が女と長押に腰をかけ、語り合っている。その様子を見ると、いったい何を話しているのだろう、話は尽きそうにないと思われる。男の装いや顔かたちなどもたいそう立派に見え、何とも言えない香りが、さっと漂ってくるのも風情がある。二人の様子や声が途切れ途切れに聞こえるのも、その先を知りたくさせる。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)