そらんじ徒然草

鎌倉の海に鰹といふ魚はかの境には双なきものにて

一言でいうと
今では珍重される鰹も、昔は身分ある人に出せない下等な魚だった。
原文
鎌倉かまくらの海に、かつをといふ魚は、かのさかひには、
さうなきものにて、このごろもてなすものなり。
それも、鎌倉の年寄りの申しはべりしは、
「この魚、おのれら若かりし世までは、
はかばかしき人の前へ出づること侍らざりき。
かしら下部しもべも食はず。切り捨て侍りしものなり」と申しき。
かやうのものも、世の末になれば、
かみざままでも入りたつわざにこそ侍れ。
現代語訳
鎌倉の海で獲れる鰹という魚は、あの土地では並ぶもののない名物として、近頃はもてはやされている。けれども鎌倉の老人が話したところでは、「この魚は、私たちが若かった頃までは、きちんとした身分の人の前に出すことなどありませんでした。頭は召使いさえ食べず、切り捨てていたものです」とのことだった。このような物まで、末の世になると、上流の人々のところへ入り込むものなのである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)