無益のことをなして時を移すを愚かなる人とも僻事する人とも言ふべし
一言でいうと
食・衣・住・医療が足りれば人は富んでいる。それ以上を求め続けるのはおごりである。
原文
無益のことをなして時を移すを、愚かなる人とも、
僻事する人とも言ふべし。
国のため、君のために、止むことを得ずして、
なすべきこと多し。
その余りの暇、いくばくならず。
思ふべし、人の身に止むことを得ずして営む所、
第一に食ふ物、第二に着る物、第三に居る所なり。
人間の大事、この三つには過ぎず。
飢ゑず、寒からず、風雨に侵されずして、
閑かに過ぐすを楽とす。
ただし、人、みな病あり。
病に冒されぬれば、その愁へ忍びがたし。
医療を忘るべからず。
薬を加へて、四つのこと求め得ざるを貧しとす。
この四つ、欠けざるを富めりとす。
この四つのほかを求め営むを驕りとす。
四つのこと倹約ならば、誰の人か足らずとせん。
現代語訳
役に立たないことをして時間を費やす人は、愚かな人とも、道に外れたことをする人ともいうべきだ。国のため、主君のために、やむを得ずしなければならないことは多い。そのため、残る暇はいくらもない。考えてみれば、人が生きるうえで、どうしても営まなければならないものは、第一に食べ物、第二に着る物、第三に住む所である。人間にとっての大事は、この三つを超えない。飢えず、寒さに苦しまず、風雨にさらされることなく、静かに暮らすのを楽しみとする。ただし、人は誰でも病気になる。病に侵されると、その苦しみは耐えがたい。だから医療を忘れてはならない。この三つに薬を加えた四つを手に入れられないことを、貧しいという。この四つが欠けていないことを、富んでいるという。この四つのほかまで求め、手に入れようとするのを、おごりという。四つのことをつつましく整えるなら、いったい誰が足りないと感じるだろうか。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)