そらんじ徒然草

いづくにもあれしばし旅立ちたるこそ目覚むる心地すれ

一言でいうと
しばらく旅に出るだけで、景色も人も持ち物も新鮮に見え、心が目覚める。
原文
いづくにもあれ、
しばし旅立ちたるこそ、目覚むる心地すれ。
そのわたり、ここかしこ見歩ありき。
田舎びたる所、山里などは、
いと目慣れぬことのみぞ多かる。
都へ便り求めて文やる。
「そのこと、かのこと、便宜びんぎに、忘るな」などいひやるこそをかしけれ。
さやうの所にてこそ、よろづに心づかひせらるれ。
持てる調度まで、よきはよく、能ある人、形よき人も、
つねよりはをかしとこそ見ゆれ。
寺・社などに、忍びてこもりたるもをかし。
現代語訳
どこへでもよいから、しばらく旅に出ると、目が覚めるような気持ちがする。そのあたりをあちこち見て歩く。田舎びた所や山里などには、見慣れないものばかりがたくさんある。都へ向かう便を探して手紙を送り、「あのことも、このことも、都合のよい時に忘れず頼む」などと言い送るのも面白い。そういう旅先にいるからこそ、何事にも自然と心が行き届く。持っている道具まで、よいものは普段以上によく見え、才能のある人や容姿のよい人も、いつもより魅力的に見える。寺や神社などに人目を避けてこもるのも面白い。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)