若き時は血気内に余り心物に動きて情欲多し
一言でいうと
若さは情熱ゆえに身を誤りやすく、老いは衰えゆえに心が静まり、知恵が深くなる。
原文
若き時は、血気、内に余り、心、物に動きて、情欲多し。
身を危ぶめて、砕けやすきこと、
珠を走らしむるに似たり。
美麗を好みて、宝を費し、これを捨てて、
苔の袂にやつれ、勇める心盛りにして、ものと争ひ、
心に恥ぢうらやみ、好む所、日々に定まらず。
色にふけり、情けにめで、行ひをいさぎよくして、
百年の身を誤り、命を失へるためし願はしくして、
身の全く久しからんことをば思はず。
好ける方に心ひきて、永き世語りともなる。
身を誤つことは、若き時のしわざなり。
老いぬる人は、精神衰へ、淡くおろそかにして、
感じ動く所なし。
心おのづから静かなれば、無益のわざをなさず。
身を助けて愁へなく、人のわづらひなからんことを思ふ。
老いて智の若き時にまされるころ、若くして、
形の老いたるにまされるがごとし。
現代語訳
若い時は血気が体の中にあふれ、心が物事に動かされ、欲望も多い。身を危険にさらし、たやすく破滅するさまは、珠を転がすようなものだ。美しいものを好んで財宝を使い果たしたかと思えば、それを捨てて僧衣に身をやつす。勇み立つ心が盛んで人と争い、心の中で恥じたり、うらやんだりし、好みも日ごとに定まらない。恋愛にふけり、風流に心を奪われ、思い切りよく振る舞って、一生を誤り、命まで失った先人の例に憧れ、自分が無事に長生きすることなど考えない。好きな方面へ心のままに進み、後世まで語り草にもなる。身を誤ることは、若い時の仕業である。年老いた人は精神が衰え、感覚も淡く大ざっぱになって、心を動かされるものがない。心が自然と静かなので、無益なことをせず、自分の身を守って心配なく暮らし、人に迷惑をかけないようにと思う。老いて知恵が若い頃より優れているのは、若い時の姿が老人より優れているのと同じである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)