ある所の侍ども内侍所の御神楽を見て人に語るとて
一言でいうと
本当に教養のある人は、知識をひけらかさず、小声の一言で誤りを正す。
原文
ある所の侍ども、内侍所の御神楽を見て、人に語るとて、
「宝剣をば、その人ぞ持ち給ひつる」など言ふを聞きて、
内なる女房の中に、別殿の行幸には、
昼御座の御剣にてこそあれ」と、忍びやかに言ひたりし。
心にくかりき。
その人、古き典侍なりけるとかや。
現代語訳
ある所の侍たちが、内侍所(宮中で神鏡を安置した所)の御神楽を見て人に語り、「宝剣はあの方がお持ちになっていた」などと言っていた。それを聞いた奥の女房の一人が、「別殿への行幸なら、あれは昼御座(天皇が昼間お過ごしになる座)の御剣でしょう」と小声で言った。奥ゆかしく、見事であった。その人は古くから仕える典侍(内侍司の次官)だったとかいう。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)