そらんじ徒然草

入宋の沙門道眼上人一切経を持来して六波羅のあたり

一言でいうと
権威ある人の説でも、根拠となる文献がなければ疑って確かめるべきである。
原文
入宋につそう沙門道眼上人しやもんだうげんしやうにん一切経いつさいきやうを持来して、
六波羅ろくはらのあたり、やけ野といふ所に安置あんぢして、
ことに首楞厳経しゆりようごんきやうを講じて、那蘭陀寺ならんだじと号す。
その聖の申されしは、
「『那蘭陀寺は、大門北向きなり』と、
江帥がうそちの説とて言ひ伝へたれど、西域伝さいゐきでん
法顕伝ほつけんでんなどにも見えず。さらに所見なし。江帥は、
いかなる才覚にてか申されけん、おぼつかなし。
唐土もろこし西明寺さいみやうじは、北向き勿論なり」と申しき。
現代語訳
宋へ渡った僧の道眼上人は、一切経を持ち帰り、六波羅の近くの焼野という所に安置し、とりわけ首楞厳経を講義して、そこを那蘭陀寺と名づけた。その高僧がこう言われた。「『那蘭陀寺の大門は北向きである』と、大江匡房の説として伝えられているが、『西域伝』や『法顕伝』などにも書かれておらず、ほかにも根拠となる記述はまったく見当たらない。匡房は何を根拠にそう言われたのか、はっきりしない。中国の西明寺が北向きであることは間違いない」と。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)