吉田と申す馬乗りの申し侍りしは
一言でいうと
技術とは力で押し切ることではなく、相手と道具の危険を見抜き、無理をしない備えである。
原文
吉田と申す馬乗りの申し侍りしは、
「馬ごとにこはきものなり。人の力、
争ふべからずと知るべし。乗るべき馬をば、
まづよく見て、強き所、弱き所を知るべし。次に、
轡・鞍の具に危ふき事やあると見て、
心にかかることあらば、その馬を馳すべからず。
この用意を忘れざるを馬乗りとは申すなり。
これ秘蔵のことなり」と申しき。
現代語訳
吉田という馬術家がこう言った。「馬はどれも恐ろしいもので、人の力で張り合える相手ではないと知るべきだ。乗ろうとする馬は、まずよく観察し、強い所と弱い所を見極めなければならない。次に、轡や鞍の道具に危険な箇所がないか調べ、少しでも気にかかることがあれば、その馬を走らせてはならない。この用心を忘れない者を馬乗りという。これが大切な秘訣である」と。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)