東大寺の神輿東寺の若宮より帰座の時源氏の公卿参られけるに
一言でいうと
儀礼の正解は表面的な作法だけでなく、その由来と目的まで知ってこそ判断できる。
原文
東大寺の神輿、東寺の若宮より帰座の時、
源氏の公卿参られけるに、この殿、
大将にて先を追はれけるを、土御門相国、
「社頭にて警蹕、いかが侍るべからん」と申されければ、
「随身の振舞ひは、兵仗の家が知ることに候ふ」とばかり答へ給ひけり。
さて、後に仰られけるは、
「この相国、北山抄を見て、
西宮の説をこそ知られざりけれ。
眷属の悪鬼・悪神を恐るるゆゑに、神社にて、
ことに先を追ふべきことわりあり」とぞ、仰せられける。
現代語訳
東大寺の神輿が東寺の若宮から帰る時、源氏の公卿たちが参列された。この殿が大将として先払いをさせていたところ、土御門相国が「神前で警蹕(声を上げて先払いすること)を行うのはいかがなものでしょう」と尋ねた。この殿は、「随身の振る舞いは、武官の家が心得ていることです」とだけお答えになった。その後で、こうおっしゃった。「この相国は『北山抄』を読んでいても、西宮左大臣の説をご存じなかった。神に従う悪鬼や悪神を恐れるからこそ、神社ではことさらに先払いをする道理があるのだ」と。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)