いにしへのひじりの御代の政をも忘れ
一言でいうと
国や民を顧みず、身の回りを豪華に飾って得意になる人は、思慮がない。
原文
いにしへの、ひじりの御代の政をも忘れ、民の愁へ、
国の損はるるをも知らず、よろづにきよらを尽して、
「いみじ」と思ひ、
所狭きさましたる人こそ、うたて、
思ふところなく見ゆれ。
「衣冠より、馬・車に至るまで、
あるにしたがひて用ゐよ。
美麗を求むることなかれ」とぞ、
九条殿の遺誡にも侍る。
順徳院の禁中の事ども書かせ給へるにも、
「おほやけの奉り物は、おろそかなるをもてよしとす」とこそ侍れ。
現代語訳
昔の賢い天皇たちの時代の政治を忘れ、民の苦しみや国が損なわれていることも知らず、何事にもぜいたくの限りを尽くして、それを「すばらしい」と思い、あたりを圧するように仰々しく振る舞う人は、実に嫌なもので、何も考えていないように見える。「衣冠から馬や車に至るまで、あり合わせのものをそのまま使いなさい。華美なものを求めてはならない」と、九条殿の遺誡にもある。順徳院が宮中のさまざまな決まりをお書きになったものにも、「天皇のお召し物は、質素なものをよしとする」とある。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)