そらんじ徒然草

比叡山に大師勧請の起請といふことは慈恵僧正書き始め給ひけるなり

一言でいうと
起請文による裁きは古来の法にはなく、後世に広まった慣行である。
原文
比叡山ひえいざん大師勧請だいしくわんじやう起請きしやうといふことは、
慈恵僧正書じゑそうじやうかき始めたまひけるなり。
起請文きしやうもんといふこと、法曹はふさうにはその沙汰なし。
いにしへの聖代、
すべて起請文につきてをこなはるるまつりごとはなきを、
近代きんだいのこと流布るふしたるなり。
また、法令はふりやうには、水火にけがれをたてず。
入れ物には穢れあるべし。
現代語訳
比叡山でいう「大師勧請の起請」、つまり大師を証人として誓う起請文は、慈恵僧正が初めて書かれたものである。起請文というものは、法律を扱う役所では取り決められていない。昔の聖明な天皇の治世には、そもそも起請文に基づいて行われる政治や裁判はなかったが、近ごろになってこのやり方が広まったのである。また、法令では、水や火そのものを穢れとはしない。それらを入れる器には穢れがあるとするのである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)