そらんじ徒然草

亀山殿建てられんとて地を引かれけるに

一言でいうと
根拠のない祟りを恐れず蛇の塚を崩したが、何の災いも起きなかった。
原文
亀山殿建かめやまどのたてられんとて、地を引かれけるに、大なるくちなは
数も知らずこり集りたるつかありけり。
「この所の神なり」と言ひて、ことのよしを申しければ、
「いかがあるべき」と勅問ちよくもんありけるに、
「古くよりこの地を占めたる物ならば、さうなく掘り捨てられがたし」と、
みな人申されけるに、この大臣一人、
王土わうどにをらん虫、皇居くわうきよを建られんに、
何のたたりをかなすべき。鬼神はよこしまなし。
とがむべからず。ただ、
みな掘り捨つべし」と申されたりければ、
塚を崩して、蛇をば大井河おほゐがはに流してげり。
さらに祟りなかりけり。
現代語訳
亀山殿を建てようとして土地を整備したところ、大きな蛇が数えきれないほど集まった塚があった。「この土地の神である」として事情を奏上すると、天皇から「どうすべきか」とお尋ねがあった。皆が「古くからこの地を占めているものなら、むやみに掘り捨てるわけにはいきません」と申し上げた中で、この大臣だけが、「天皇の治める土地にいる虫が、皇居をお建てになるのに、何の祟りを起こせるでしょう。鬼神に邪心はありません。気にかける必要はなく、すべて掘り捨てるべきです」と申し上げた。そこで塚を崩し、蛇を大井川へ流してしまったが、まったく祟りはなかった。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)