経文などの紐を結ふに
一言でいうと
経巻の紐にも古来の正しい結び方があり、当世風は見苦しい。
原文
経文などの紐を結ふに、上下よりたすきにちがへて、
二筋の中より、わなの頭を横ざまに引き出だすことは、
常のことなり。
さやうにしたるをば、華厳院の弘舜僧正、
解きて直させけり。
「これは、このごろやうのことなり。いとにくし。
うるはしくは、ただ、くるくると巻きて、上より下へ、
わなの先をさしはさむべし」と申されけり。
古き人にて、かやうのこと知れる人になん侍りける。
現代語訳
経巻などの紐を結ぶ時、上下からたすき形に交差させ、二本の紐の間から輪の先を横向きに引き出すのが普通になっている。そのように結んであるものを、華厳院の弘舜僧正は解いて結び直させた。「これは近ごろ流行したやり方で、ひどく見苦しい。本来の正しい結び方は、ただくるくると巻き、輪の先を上から下へ差し挟むものだ」とおっしゃった。昔気質の人で、こうした故実を知っている方だったのである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)