想夫恋といふ楽は女男を恋ふるゆゑの名にはあらず
一言でいうと
雅楽の曲名は恋物語ではなく、異なる由来の語が同じ音に転じたものだ。
原文
想夫恋といふ楽は、女、男を恋ふるゆゑの名にはあらず。
もとは相府蓮、文字の通へるなり。
晋の王倹、大臣として、
家に蓮を植ゑて愛せし時の楽なり。
これより大臣を蓮府といふ。
廻忽も廻鶻なり。
廻鶻国とて、夷のこはき国あり。
その夷、漢に伏して後に、来たりて、
おのれが国の楽を奏せしなり。
現代語訳
「想夫恋」という雅楽の曲は、女が男を恋しく思うことからついた名ではない。もとは「相府蓮」で、同じ音の文字に置き換わったのである。晋の王倹が大臣であった時、家に蓮を植えて愛したことにちなむ曲である。これによって大臣のことを蓮府という。「廻忽」も、もとは「廻鶻」である。廻鶻国という、異民族の強大な国があった。その民が漢に服属した後、やって来て自国の音楽を演奏したのである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)