そらんじ徒然草

何事も古き世のみぞしたはしき

一言でいうと
器も文章も日常の言葉も、昔のものほど品があり、今風になるほど俗になっていく。
原文
何事なにごとも古き世のみぞしたはしき。
今様いまやうは無下にいやしくこそ、なりゆくめれ。
かの木の道のたくみの作れる、美しき器物うつはものも、
古代こたいの姿こそ、をかしと見ゆれ。
文のことばなどぞ、昔の反古ほぐどもはいみじき。
ただ言ふ言葉も、口惜しうこそなりもてゆくなれ。
「いにしへは、『車もたげよ』、
『火かかげよ』とこそ言ひしを、今様の人は、
『もてあげよ』、『かきあげよ』と言ふ。
主殿寮人とのもりづかさびと、人数だて』と言ふべきを、
『たちあかし、しろくせよ』と言ひ、
最勝講御聴聞所さいしょうかうごちゃうもんじょなるをば、『ごかうのろ』とこそ言ふを、
『かうろ』と言ふ。口惜し」とぞ、古き人は仰せられし。
現代語訳
何事につけても、昔の世ばかりが慕わしい。今風のものは、ひどく下品になっていくようだ。木工の名匠が作った美しい器物も、古い時代の姿をしたものこそ趣深く見える。文章の言葉なども、昔の書き損じの紙に残るものはすばらしい。普段口にする言葉まで、しだいに残念なものになっていく。「昔は、『車を上げよ』『火を高く掲げよ』と言ったのに、今の人は『持ち上げよ』『かき上げよ』と言う。『主殿寮の役人よ、人数をそろえよ』と言うべきところを、『松明を明るくせよ』と言い、最勝講の御聴聞所を『ごこうのろ』と言うところを『こうろ』と言う。残念なことだ」と、昔を知る人はおっしゃった。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)