おとろへたる末の世とはいへど
一言でいうと
衰えた世でも、宮中の古い建物や作法や言葉には、俗世を離れた尊さが残る。
原文
おとろへたる末の世とはいへど、なほ、
九重の神さびたるありさまこそ、世づかず、
めでたきものなれ。
露台・朝餉・何殿・何門などは、いみじとも聞こゆべし。
あやしの所にもありぬべき、
小蔀・小板敷・高遣戸なども、めでたくこそ聞こゆれ。
「陣に夜の設せよ」と言ふこそ、いみじけれ。
夜の御殿のをば、「かいともし、とうよ」など言ふ、
まためでたし。
上卿の陣にて、こと行へるさまはさらなり。
諸司の下人どもの、したり顔に慣れたるもをかし。
さばかり寒き夜もすがら、
ここかしこに睡り居たるこそ、をかしけれ。※1
「内侍所の御鈴の音は、めでたく、
優なるものなり」とぞ、
徳大寺太政大臣は仰せられける。
本文について
- ※1をかしけれ烏丸本では「おかしけれ」。ほかの諸本・注釈書の本文に従いました。
現代語訳
衰えた末の世とはいっても、やはり宮中の古式ゆかしい様子は世俗離れしていて、すばらしい。露台、朝餉、何々殿、何々門などという名は、立派なものと聞こえて当然だろう。粗末な場所にもありそうな小蔀、小板敷、高遣戸などという言葉まで、すばらしく聞こえる。「陣の間に夜の準備をせよ」と言うのも立派である。天皇の寝所の灯火について、「灯心をかき立てて、早くともせ」などと言うのも、またすばらしい。上卿が陣の座で政務を執り行っている様子は、言うまでもない。各役所の下役たちが、得意そうに仕事に慣れているのも面白い。ひどく寒い夜、一晩中あちこちで居眠りしている姿も面白い。「内侍所の御鈴の音はすばらしく、優雅なものだ」と、徳大寺太政大臣はおっしゃった。