そらんじ徒然草

すべて人は無智無能なるべきものなり

一言でいうと
知識や腕前は、見せる場を誤るとたちまち嫌味になる。
原文
すべて人は無智無能むちむのうなるべきものなり。
ある人の子の、見ざまなど悪しからぬが、父の前にて、
人と物言ふとて、史書ししよの文を引きたりし。
「さかしくは聞こえしかども、尊者そんじやの前にては、さらずとも」と思えしなり。
また、ある人のもとにて、
琵琶法師びはほふしの物語を聞かん」とて。
琵琶を召し寄せたるに、ぢゆうの一つ落ちたりしかば、
「作りて付けよ」と言ふに、ある男の中に、
あしからずと見ゆるが、
「古き柄杓ひさくの柄ありや」など言ふを見れば、
つめふしたり。
琵琶など弾くにこそ。
盲法師めくらほふしの琵琶、その沙汰にも及ばぬことなり。
「道に心得たるよしにや」と、かたはらいたかりき。
「柄杓の柄は、檜物木ひものぎとかや言ひて、よからぬ物に」とぞ、ある人仰せられし。
若き人は、少しのことも、よく見え、わろく見ゆるなり。
現代語訳
人は何事にも、知らない、できないという顔をしているのがよい。ある人の息子で、見た目も悪くない若者が、父親の前で人と話す時に史書の一節を引用した。賢そうには聞こえたが、目上の父の前では、そこまでしなくてもよいのにと思った。また、ある人の家で「琵琶法師の語りを聞こう」と琵琶を取り寄せたところ、柱(弦を支える部品)が一つ取れていたので、「作って付けなさい」と言った。居合わせた男のうち、感じの悪くなさそうな者が「古い柄杓の柄はありませんか」などと言う。見ると爪を伸ばしており、琵琶を弾く者らしかった。しかし、盲目の法師が使う琵琶なのだから、そこまで口を出す必要はない。「自分がその道に通じていると示したいのか」と、見ていて気恥ずかしかった。「柄杓の柄は檜物木という粗末な材で、琵琶には向かないものだ」と、ある人がおっしゃった。若い人は、ほんの少しのふるまいでも、よくも悪くも目立つものである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)