そらんじ徒然草

人の物を問ひたるに

一言でいうと
知っていることを、相手に聞き返させるような言い方で出し惜しみしてはいけない。
原文
人の、物を問ひたるに、
「知らずしもあらじ。ありのままにはんは、をこがまし」とにや、
心惑はすやうに返事かへりごとしたる、よからぬことなり。
知りたることも、「なほさだかに」と思ひてや問ふらん、
また、まことに知らぬ人もなどかなからん。
うららかに言ひ聞かせたらんは、
おとなしく聞こえなまし。
人は、いまだ聞き及ばぬことを、わが知りたるままに、
「さても、その人のことのあさましさ」などばかり言ひやりたれば、
「いかなることのあるにか」と、
おし返しひにやるこそ、心づきなけれ。
世に古りぬることをも、
おのづから聞き漏らすあたりもあれば、
おぼつかなからぬやうに告げやりたらん、
悪しかるべきことかは。
かやうのことは、もの馴れぬ人のあることなり。
現代語訳
人から何かを尋ねられた時、「相手も知らないはずはあるまい。ありのまま答えるのはばかげている」とでも思うのか、相手を戸惑わせるような返事をするのはよくない。相手は知っていることでも、さらに確かめたいと思って尋ねたのかもしれないし、本当に知らない人だっているだろう。明るくはっきり教えてあげれば、落ち着いた立派な人だと思われるはずだ。まだ聞いていない話を、こちらが知っているからといって、「それにしても、あの人のしたことのひどさといったら」などとだけ言って送ると、相手は「いったい何があったのか」と、もう一度尋ね返さなければならない。それが感じ悪い。世間ではもう古い話でも、たまたま聞き漏らしている人もいるのだから、疑問が残らないように話してやって、何が悪いだろう。このような言い方は、世慣れない人がするものである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)