風も吹きあへずうつろふ人の心の花に慣れにし年月を思へば
一言でいうと
心変わりした人と生きながら別れる悲しみは、死別よりも深く胸に残る。
原文
風も吹きあへずうつろふ人の心の花に、
慣れにし年月を思へば、
あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、
わが世の外になりゆく習ひこそ、亡き人の別れよりもまさりて、悲しきものなれ。
されば、白き糸の染まんことを悲しび、
路のちまたの分かれんことを歎く人もありけんかし。
堀川院の百首の歌の中に、
昔見し妹が垣根は荒れにけりつばなまじりの菫のみして
さびしき気色、さること侍りけん。
現代語訳
風が吹く間もなく散ってしまう花のように、人の心はたちまち変わる。その人と親しく過ごした年月を思うと、しみじみ心に響いた言葉の一つ一つを忘れられないまま、相手が自分とは別の世界の人になっていくことが、亡くなった人との別れ以上に悲しい。だからこそ、白い糸がさまざまな色に染まることを悲しみ、道が分かれる岐路を嘆いた人もいたのだろう。堀川院の百首の歌に、「昔会った愛しい人の家の垣根は荒れ果て、茅花にまじって菫だけが咲いている」とある。その寂しい景色には、きっと深い事情があったのだろう。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)