そらんじ徒然草

雪のおもしろう降りたりし朝人のがり言ふべきことありて

一言でいうと
用件だけでなく雪の美しさにも触れよとたしなめた人の感性が、忘れがたい。
原文
雪のおもしろう降りたりしあした
人のがり言ふべきことありて、文をやるとて、
雪のこと何とも言はざりし返り事に、
「『この雪いかが見る』と、一筆のたまはせぬほどの、
ひがひがしからん人の仰せらるること、
聞き入るべきかは。
かへすがへす口惜しき御心みこころなり」と言ひたりしこそ、
をかしかりしか。
今は亡き人なれば、かばかりのことも忘れがたし。
現代語訳
美しく雪の降った朝、ある人に用事があって手紙を送ったところ、雪について何も書かなかったことへの返事に、こうあった。「『この雪をどうご覧になりますか』と一筆もお書きにならない、そんな風情のない方のおっしゃることなど、聞き入れられるでしょうか。まったく情けないお心です」。そう言ってきたのが面白かった。その人は今では亡くなっているので、この程度のささやかな出来事さえ忘れがたい。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)