春の暮れつかたのどやかに艶なる空に
一言でいうと
春の終わり、古びた家で静かに書物を読む美青年を見かけ、その正体を知りたくなった。
原文
春の暮れつかた、のどやかに艶なる空に、
いやしからぬ家の、奥深く、木立ちもの古りて、
庭に散りしをれたる花見過ぐしがたきを、
さし入りて見れば、南面の格子みな下して、
さびしげなるに、東に向きて、
妻戸のよきほどに開きたる、御簾の破れより見れば、
形清げなる男の、年二十ばかりにて、うちとけたれど、
心にくく、のどやかなるさまして、
机の上に文を繰り広げて、見居たり。
いかなる人なりけん。
尋ね聞かまほし。
現代語訳
春も暮れようとするころ、のどかで美しい空の下に、身分の低くない人の家があった。奥深く、木立も古び、庭に散ってしおれた花が、見過ごしがたい風情だったので中へ入ってみた。南向きの部屋の格子はすべて下ろされ、寂しそうだったが、東を向いた妻戸がほどよく開いていた。その御簾の破れから見ると、顔立ちの清らかな二十歳ほどの男がいた。くつろいだ姿ながら品があり、ゆったりとした様子で、机の上に書物を広げて読んでいた。いったいどのような人だったのだろう。尋ねて聞いてみたい。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)