そらんじ徒然草

元応の清暑堂の御遊に玄上は失せにしころ菊亭大臣牧馬を弾じ給ひけるに

一言でいうと
演奏直前に琵琶を壊されても、名手は手早く直して何事もなかったように弾いた。
原文
元応げんおう清暑堂せいしよだう御遊ぎよいうに、玄上げんじやうは失せにしころ、
菊亭大臣きくていのおとど牧馬ぼくばを弾じたまひけるに、座に着きて、
まづ、じうを探られたりければ、一つ落ちにけり。
御懐おんふところにそくひを持ち給ひたるにて、付けられにければ、
神供じんぐの参るほどによくて、ことゆゑなかりけり。
いかなる意趣いしゆかありけん、物見ける衣かづきの、
寄りて放ちて、もとのやうに置きたりけるとぞ。
現代語訳
元応年間、清暑堂で管弦の御遊が開かれた時、名器の琵琶「玄上」が失われていたころだったので、菊亭大臣が「牧馬」という琵琶をお弾きになった。席に着き、まず弦を支える柱を確かめられると、一つが取れて落ちてしまった。懐に続飯(米粒を練った接着剤)をお持ちだったので、それで付け直すと、神への供物が運ばれてくる間によく乾き、演奏には何の支障もなかった。どのような恨みがあったのだろうか。見物していた、衣を頭からかぶった女が近寄って柱を外し、元どおりに置いていたのだという。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)