そらんじ徒然草

蟻のごとくに集まりて東西に急ぎ南北に走る

一言でいうと
人は老いと死へ急ぎながら、目先の生と利益を追うことに一日中追われている。
原文
ありのごとくに集まりて、東西に急ぎ、南北にわしる。
高きあり、賤きあり。
老いたるあり、若きあり。
行く所あり、帰家あり。
夕にねて、朝に起く。
いとなむところ、何ごとぞや。
しやうをむさぼり、利を求めて、やむ時なし。
身を養ひて、何ごとをか待つ。
するところ、ただ老と死とにあり。
その来たること、すみやかにして、
念々ねんねんの間にとどまらず。
これを待つ間、何の楽しびかあらん。
惑へる者はこれを恐れず。
名利みやうりにおぼれて、先途せんどの近きことをかへりみねばなり。
愚かなる人は、またこれを悲しぶ。
常住じやうぢゆうならんことを思ひて、変化へんげことわりを知らねばなり。
現代語訳
人々は蟻のように群がり集まり、東へ西へと急ぎ、南へ北へと走り回る。身分の高い者も、低い者もいる。老人も、若者もいる。出かける者も、家へ帰る者もいる。夕方に寝て、朝には起きる。そうまでして励んでいるのは、いったい何のためなのか。命に執着し、利益を求めて、休む時もない。身体を養って、何を待っているというのか。待ち受けているのは、ただ老いと死だけである。それらはたちまちやって来て、一瞬一瞬もとどまらない。それを待つ間に、どんな楽しみがあるというのか。迷っている者は、これを恐れない。名誉と利益に溺れ、人生の終わりが近いことを顧みないからである。愚かな人は、反対にこれを悲しむ。いつまでも変わらずにいられることを願い、すべてが移り変わる道理を知らないからである。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)