そらんじ徒然草

世の人の心まどはすこと色欲にはしかず

一言でいうと
人の心を最も惑わせるのは色欲であり、作りものの香りにさえ心は動く。
原文
世の人の心まどはすこと、色欲しきよくにはしかず。
人の心はおろかなるものかな。
匂ひなどは仮のものなるに、
「しばらく衣裳いしゃうき物す」と知りながら、
えならぬ匂ひには、必ず心どきめきするものなり。
久米くめ仙人せんにんの、物洗ふ女のはぎの白きを見て、
通を失ひけんは、まことに、
手・足・はだへなどの清らに、肥えあぶらづきたらんは、
ほかの色ならねば、さもあらんかし。
現代語訳
世の人の心を惑わせるものとして、色欲にまさるものはない。人の心とは愚かなものだ。香りなどは一時的な作りものにすぎず、「しばらく着物に香をたきしめているのだ」と知りながら、何ともいえないよい香りには、きまって胸がときめく。久米の仙人が、洗濯をする女のすねの白さを見て神通力を失ったというのも、手足や肌などが清らかで、ふっくらとなめらかなのは作りものの色ではないのだから、無理もないことだ。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)