そらんじ徒然草

法顕三蔵の天竺に渡りて

一言でいうと
故郷を恋しがる弱さを、人間らしい情けとして受け取れる人は奥ゆかしい。
原文
法顕三蔵ほつけんさんざうの、天竺てんぢくに渡りて、故郷ふるさとの扇を見ては悲しび、
病に臥しては漢の食を願ひたまひけることを聞きて、
「さばかりの人の、無下にこそ、
こころ弱き気色を人の国にて見え給ひけれ」と人の言ひしに、
弘融僧都こうゆうそうづ
いうに情けありける三蔵なか」と言ひたりしこそ、
法師のやうにもあらず、心にくく思えしか。
現代語訳
法顕三蔵がインドへ渡り、故郷の扇を見ては悲しみ、病に伏しては中国の食べ物を望まれたという話を聞いて、ある人が「それほど立派な人が、外国でまったく情けないほど心弱い様子をお見せになったのだな」と言った。すると弘融僧都は、「なんと優雅で、人情のある三蔵だろう」と言った。その言葉は、いかにも僧らしい型にはまったものではなく、奥ゆかしく思われた。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)