惟継中納言は風月の才に富める人なり
一言でいうと
寺を失った寺法師を、ただの法師と呼んだ機転のきいた冗談。
原文
惟継中納言は、風月の才に富める人なり。
一生精進にて、読経うちして、
寺法師の円伊僧正と同宿して侍りけるに、
文保に三井寺焼かれし時、坊主にあひて、
「御坊をば寺法師とこそ申しつれど、寺はなければ、
今よりは法師とこそ申さめ」と言はれけり。
いみじき秀句なりけり。
現代語訳
惟継中納言は、詩歌や風雅の才能に富んだ人である。生涯肉食を断ち、読経をして過ごし、三井寺の寺法師である円伊僧正と同宿していた。文保年間に三井寺が焼かれた時、円伊僧正と会って、「あなたをこれまでは寺法師と申してきましたが、寺がなくなったので、今後はただの法師とお呼びしましょう」と言った。実に見事な機知の言葉であった。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)