大納言法印の召し使ひし乙鶴丸やすら殿といふ者を知りて
一言でいうと
相手の頭を見ていないから、男か僧かわからないという、とぼけた返事。
原文
大納言法印の召し使ひし乙鶴丸、
やすら殿といふ者を知りて、常に行き通ひしに、ある時、
出でて帰り来たるを、法印、
「いづくへ行きつるぞ」と問ひしかば、
「やすら殿のがり、まかりて候ふ」と言ふ。
「そのやすら殿は、男か法師か」と、また問はれて、
袖かき合はせて、
「いかが候ふらん。頭をば見候はず」と答へ申しき。
などか、頭ばかりの見えざりけん。
現代語訳
大納言法印が召し使っていた乙鶴丸は、やすら殿という者と知り合いで、いつもそのもとへ通っていた。ある時、出かけて帰ってくると、法印が「どこへ行っていたのか」と尋ねたので、「やすら殿のところへ参っておりました」と答えた。「そのやすら殿は男なのか、それとも僧なのか」と重ねて問われると、乙鶴丸は袖をかき合わせてかしこまり、「どちらでございましょう。頭は見ておりません」と答え申し上げた。どうして頭だけが見えなかったのだろう。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)