そらんじ徒然草

赤舌日といふこと陰陽道には沙汰なきことなり

一言でいうと
吉凶は日取りで決まるのではなく、その人の行いによって決まる。
原文
赤舌日しやくぜちにちといふこと、陰陽道おんやうだうには沙汰さたなきことなり。
昔の人、これを忌まず。
このごろ何者の言ひ出でて、忌み始めけるにか。
「この日あること、すゑ通らず」と言ひて、その日、
言ひたりしこと、したりしことかなはず、
得たりし物は失ひつ、企てたりしことならずと言ふ、
愚かなり。
吉日を選びてなしたるわざの、末通らぬを数へてみんも、
また等しかるべし。
そのゆゑは、無常変易むじやうへんやくさかひ、有りと見るものも存ぜず、
始あることも終りなし。
志は遂げず、望みは絶えず、人の心、不定ふぢやうなり。
ものみな幻化げんけなり。
何ごとか、しばらくもぢゆうする。
このことわりを知らざるなり。
「吉日に悪をなすに、必ず凶なり。悪日に善を行ふに、必ず吉なり」といへり。
吉凶きつきようは人によりて日によらず。
現代語訳
赤舌日というものは、陰陽道では問題にされていない。昔の人は、この日を避けなかった。近ごろ誰が言い出して、避け始めたのだろうか。「この日に始めたことは最後までうまくいかない」と言い、その日に言ったことやしたことはかなわず、手に入れた物は失い、計画したことは実現しないというのは愚かである。吉日を選んで行ったことのうち、最後までうまくいかなかったものを数えてみても、同じくらいあるだろう。なぜなら、すべてが絶えず移り変わるこの世では、存在するように見えるものも存続せず、始まりのあることにも終わりがない。志は遂げられず、望みは尽きず、人の心は定まらない。すべてのものは幻のように変化する。何がほんのしばらくでも同じ状態にとどまるだろうか。この道理を知らないのである。「吉日に悪事をすれば必ず凶となり、悪日に善を行えば必ず吉となる」という。吉凶は人によるのであって、日によるのではない。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)