堀河相国は美男のたのしき人にてそのこととなく過差を好み給ひけり
一言でいうと
古くから受け継がれた公の品は、傷みさえも由緒として軽々しく改めない。
原文
堀河相国は、美男のたのしき人にて、
そのこととなく過差を好み給ひけり。
御子基俊卿を大理になして、庁務行はれけるに、
「庁屋の唐櫃見苦し」とて、
めでたく作り改めらるべきよし、仰せられけるに、
この唐櫃は、上古より伝はりて、その始めを知らず。
数百年を経たり。
累代の公物、古弊をもちて規模とす。
たやすく改められがたきよし、故実の諸官ら申しければ、
そのことやみにけり。
現代語訳
堀河相国は美男子で、裕福な人であり、何かにつけて度を越した華美を好まれた。子の基俊卿を検非違使別当(警察・裁判をつかさどる役所の長官)にして役所の仕事を行わせた時、「役所の唐櫃が見苦しい」と言い、立派に作り直すよう命じられた。しかしこの唐櫃は大昔から伝わり、いつ作られたかもわからず、数百年を経たものだった。代々伝わる公の品は、古び傷んでいることを格式の証しとするので、簡単には改められないと、先例に詳しい役人たちが申し上げたため、作り直す話は取りやめになった。
全244段の目次
底本: 烏丸光広本『徒然草』校訂本文(やたがらすナビ・CC BY-SA 4.0)